米国の大病院

〜入院はこんな感じ〜

 

私の米国人の夫は循環器系疾患があり、主に内視鏡による手術の為に一泊から3泊の比較的短期の入院を何度もしたことがある。10年前に私は初めて救急車に乗って夫とともにNYマンハッタンのベス・イスラエル・メディカルセンターのER(緊急救命室)に運ばれて以降、NYで数回、4年前にフロリダに転居してからも数回入院したので、私はすっかり大病院の入院患者のベテラン家族になってしまった。

 

夫は6月中旬にフロリダのデルレイ・メディカルセンターでアブレーション(不整脈を引き起こす心臓の異常な個所にカテーテルを使用して焼灼を行い正常なリズムに戻す手術)を受けて一泊入院した。その3週間前に心房細動で二日間入院してカーディオ・バージョン(電気的除細動)とアミオダロン(抗不整脈薬)の投与で一旦おさまったが、やはりアブレーションが必要ということで行なったものだった。実はアブレーションはNYに住んでいた頃にすでに2回やっているので3度目だ。

 

日本でも近年は入院日数はどんどん短くなってきているようだが、米国は日本と比べると一般的に入院日数がとても短い。手術日の前日から入院するということはない。手術前日に入院登録で書類上の手続きをし、採血を済ませ、体を雑菌する液体ボトルを手渡され前日夜と当日朝にシャワーでそれを使ってきれいにするように言われ、手術の主治医や麻酔科医との面接を行なう。手術当日は朝早く病院に出向き、手術前の準備の後、手術が始まる。手術が終わるとその後すぐに手術を行った主治医から直接家族に手術がどうだったか説明される。本人はリカバリールームという手術後の患者たちが集中的に管理される所(カーテンで仕切られた大きな部屋)に数時間滞在ののち、入院の部屋が決まってその部屋に送られる。

 

デルレイ・メディカルセンター(ベッド数536)では、循環器系で入院する際は古い病棟の部屋が割り当てられる。去年の秋、消化器出血で入院した時はその前年に改築したばかりの新しい病棟のきれいな一人部屋だったのだが、それはしかたない。米国の病院では部屋はほとんどが一人部屋か二人部屋だ。四人部屋というのは見たことがない。今回は一人部屋でほっとした。二人部屋だとどうしてもなにかと雑音が多くて落ち着かない。部屋にはトイレとシャワーが付いている。服をつるすクロゼットもある。テレビは無料。携帯電話の使用は自由。病院中にWIFIが入っていてインターネットが可能だ。

 

入院する時に寝まきは不要。病院が専用のものを用意している。入院キット(歯磨き、歯ブラシ、くし、ティッシュペーパー、アイマスク、耳栓、使い捨てのカップ、小さなプラスティック容器、大小のタオル等が洗面器のようなものにまとめて入れてある)を手渡されるので何も持っていく必要はない。しかし私たちは入院のベテランなので、着替えの下着や夫が好むヘアブラシ、ヘアスプレー、リップクリーム、携帯電話の充電器などを持参する。私自身は手術の日はいつも何時間も待合室で待たされるし、入院の部屋に入ってからも付き添いでじっとベッドの横にいる時間が長いことはわかっているので、本、雑誌、それからパンやお菓子、水筒に暖かいお茶を入れて持参する。

 

それから米国の病院や医院は一般的に夏は冷房がきつくて日本人には寒い。私は特に寒がりなので病院に長時間いると冷え切ってしまうのでカーディガン、フードの付いたウィンドブレーカー、ひざ掛けを持っていく。米国人は暑がりが多いのだが、待合室が寒いと感じるのは私だけではないようで、先日米国人の高齢女性に「あなたは準備がいいわねえ、私は寒くて凍えるわ。」と言われた。

 

入院で割り当てられる部屋は普通は自分で選べない。一人部屋がいいか二人部屋がいいか聞かれたことはない。いつもリカバリールームで長く待たされて、部屋が早く空いて入れるようにならないかなあと思うので、入れる部屋があったらどちらでもいいから早く入れてくれという感じだ。

 

今回の手術は午前7時半からということで朝の6時すぎに病院に行った。私たちより早く来ている患者や家族が待合室にすでに10数人いた。実際に夫の手術が始まったのは8時頃で終わったのは11時頃、リカバリールームに送られ、入院の部屋に入れたのが午後2時半ごろ。夫は前日の夜中の12時から何も食べてはいけないし水も飲んではいけないと言われていたので空腹だったろうが、ぐったりしていたので遅いランチが運ばれてきたが夫はそれを食べず、代わりに私が食べた。それから一時間くらいして夫はサンドイッチを看護師さんからもらって食べた。夕食は5時半ごろ来た。夫は半分くらい食べた。私は午後6時半頃家に帰った。12時間も病院にずっといたので疲れた。

 

翌朝10時ごろに病室に行った。夫は昨夜はよく寝られなかったと言った。米国の病院では特に理由がない限り各部屋のドアは開けておくのがルールだ。それは廊下を通りがかった看護師や医師が患者の様子がわかるようにするためだ。ドアは日本の病院でよくあるような引き戸ではなく部屋の内側にあくドアだ。大きなドアでベッドごと移動できる。ドアが常に開けられているので廊下の騒音がうるさい。看護師たちが話す声、廊下を通るカートやストレッチャーの音、夜中でも患者はひっきりなしに入院して来るので廊下の音は絶えない。昨夜は特に向かい側の患者がせき込む声がひどくて夜中うるさかったそうだ。それに一時間ごとに看護師がなんやかやでやってきて、体温や血圧などのバイタルチェック、点滴、採血などあるので眠りに入ろうとすると起こされたそうだ。そういうことは過去の入院でも概ね同じだったので別におどろくことでもない。

 

午前中に手術の主治医が部屋に来て予定通り本日退院してよいということだったので、退院の手続きを待った。しかしプライマリーケア(かかりつけ医)の退院許可がまだ出てないとのことだった。夫のプライマリーケアの医師はこのデルレイ・メディカルセンターの提携医で、自分の医院と病院を連日行ったり来たりしている。プライマリーケアの医師がこの病院と提携してない場合は病院の代わりの医師が退院許可を出すことになっている。プライマリーケアの医師は午後1時半ごろ病室に来て軽く夫を診察して退院許可を出した。そして看護師に点滴をはずしてもらって、手の甲に付けられた点滴の為の留置針をとりさり、ずっと付けていた心電図の器具と体に張り付けていた数個のパッチをとって着替えた。それからしばらくして看護師が退院用の書類を持って来て、サインをし、自宅でのケアの仕方を説明された。夫は歩けるがまだゆっくりとしか歩けないのでボランティアが車椅子を持って来てくれて、夫は車椅子で病院の玄関まで送ってもらった。私が運転する車に乗って病院を出られたのは午後3時頃だった。

 

さて今回の入院費用について。その前に健康保険について説明すると、夫はよく病院のお世話になるので私たちは毎月の保険料はとても高いが(月に夫婦二人分で$1903ドル)、とてもカバーがよい健康保険に入っている。入院時の医療費は一割負担で、Out of pocket maximumと呼ばれる個人負担の年間上限額が一人で3250ドルだ。すなわち1月からの累積で当人の個人負担の医療費が3250ドルを超えたら、その後の医療費は1231日まで100%保険会社が負担してくれる。

 

普通の多くの人はOut of pocket maximumの額が一人7千ドル位で毎月の保険料がもっと安いのを選んでいる。民間企業に勤務している多くの普通の家庭の場合は、夫婦二人なら月額保険料は七百ドル位のを選択している人が多いかと思う(ちなみに子供がいるともっと高い)。うちは個人で健康保険に加入しているので会社を通して加入する健康保険料より月額保険料は高額になる。米国の健康保険料は内容により千差万別だ。公務員や学校・病院のような非営利団体勤務者は年収は低めだが従業員ベネフィットが充実していて、健康保険はもっと月額保険料が安くてカバーもよいそうだ。

 

手術日前日の入院登録の時に今回の手術と入院の医療費について説明を受けた。健康保険適用前の満額で約4万ドルで、一割負担で4千ドルの支払いになると言われた。しかし、私たちは3週間前にも2泊の入院をしていて、その時の請求書がまだ来ていないのではっきりしないが、入院するとベッド代だけでも保険適用前の満額で一泊四千ドル位はするので、Out of pocket maximumの額にすでに達しているのではないかと質問した。係員が保険会社に電話連絡してどうやらまだOut of pocket maximumには達していないが、あと千ドル程度と分かったのでその額だけ払った。米国では健康保険に入っていないと大きな病気をすると自己破産する。