ニューヨークの風 第38

白人の鼻コンプレックス

アンジェラ・アキが日本のテレビによく出ていて、いい歌だなと思う。米国進出してもやっていけるのではと日本人は思うかもしれない。しかしアンジェラファンには言いにくいけれど、彼女は白人にときどきいる典型的な魔女顔。米国では芸能界はビジュアルが極めて大事なので、残念ながら彼女は米国では無理だろうというのが米国事情。

欧米では、たとえばカトリーヌ・ドヌーヴの鼻やジェニファー・ロペスの鼻のように、形がよく小さい鼻が好まれ、高すぎる大きい鼻、段がついたような鉤鼻、盛り上がった鷲鼻、矢印のような鼻などが良くないとされる。米国の週刊誌などの美容外科の手術前・手術後の写真広告では、鼻を削る手術の広告をよく見かける。

 

 

 

たとえば鈴木保奈美はとてもきれいだけれど、彼女の盛り上がった鼻は米国の美容外科医が削りたくなる鼻だそうだ。たしかにそうすれば米国的にはますますきれいになる。

英語では日本語のように高い鼻(tall nose)という表現はなく、大きい鼻(big nose)と表現しネガティブな意味で使われる。ちなみに、小さい鼻(small nose)は良い鼻だけれど、低すぎるぺちゃ鼻は(flat nose)。白人の鼻に関するコンプレックスは、シラノ・ド・ベルジュラックの大きくて醜い鼻や、ピノキオの嘘をつくとどんどん伸びる鼻というストーリーからも読み取れる。「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、歴史は変わっていただろう」という言葉は日本人にわかり易くするための訳語で、パスカルの『パンセ』の原語では低いではなく短いと表現されているらしい。

米国で生活していると時々米国人はアジア人の美醜がわからないのかなぁと思うことがある。多分そう感じるアジア人は私だけではないと思う。日本で平凡なルックスとされる女性がとてもかっこいい白人男性とカップルになっていることがある。アジア人は立体感のない顔立ちなので、アジア人の間では少しでも鼻が高くて堀の深い顔が良いとされるが、少なくとも米国では必ずしもそうではないのだ。アジア人ののっぺりした顔が意外と人気だったりする。

ニューヨークの地下鉄やバスで座っていると、なぜ高すぎる鼻が良くないとされるのか、なんとなくわかった。座っていると立っている人の鼻の穴の形がよく見える。アジア人の鼻の穴の形は丸っこいが白人の鼻の穴の形は細長い。鼻が高すぎるとそれに伴って鼻の穴がものすごく細長く大きくなるのだ。たしかに鼻の穴が大きすぎるのはかわいくない。鼻の穴を小さくかわいいと思えば、小さめの低めの鼻の方がよいということになるのだ。

そういう目で見ると日本の年配の女優、江波杏子は日本人離れした西洋的な顔だちの美人で個人的にも好きな女優だが、鼻だけ見るとたしかに鼻の穴が大きすぎる。経営コンサルタントの勝間和代も立派な鼻で美人と思うがやはり鼻が高い分、鼻の穴が大きいなあとテレビを見て思う。

米国で好まれるアジア系女優は、チャン・ツィイー、ルーシー・リュー。台湾人のスー・チー、韓国人のソン・ヘギョ。日本人女優で米国の映画やテレビに出たことのある女優を考えてみると、島田陽子、工藤夕貴、小雪、菊地凛子。たしかにみな小さめの鼻でアジア的な雰囲気のある顔立ち。

米国では日本で美人とされる女性は相対的価値が下がり、そうでない女性は相対的価値が上がる。日本で美人とされるのは鼻が高くて堀の深い顔。だけれどもそういう顔の女性は米国にはたくさんいるので日本で得る程の高い評価を得られない。逆に日本で平凡な顔の女性は米国人男性にとっては結構チャーミングらしくて小さい目もぺちゃ鼻もかわいさの一種らしい。ただし米国在住のアジア人男性の間では、やはり堀の深い顔だちのアジア人女性の評価が高く、日本で美人とされる女性はアジア人男性の間で特に人気が高い。

 

人間は結構知らず知らずのうちにDNAに正直に行動するものだ。背の低い人が、子供が丁度良くなるように背の高い相手を選ぶように、鼻が高く大きすぎる白人は鼻が低く小さいアジア人をチャーミングと感じるのかもしれない。たしかに白人とアジア人の間に生まれた子供は鼻が大きすぎず低すぎずちょうど良い鼻になることが多い。

話がそれるが、アジア人女性の中で米国人男性に一番人気なのは日本人女性。それはおしゃれで髪もきれいにしているという外見的理由もあるだろうけど、主には経済的な理由と思う。日本人はやはり経済的に豊かで、交際したり結婚したりしても経済的に迷惑をかけられる心配が少ない。日本在住の親もしっかりした職業に就いていて経済的にも問題のない家庭出身が多い。歴史的には、これが中国人、韓国人、ベトナム人、そのほかの東南アジア人などだと一人が米国人と結婚すると、米国への移民を求めて親兄弟や親戚が芋づる式にぞろぞろ出て来て大変なことになる可能性があるのだそうだ。

米国人女性の間では、アジア人男性の中で日本人男性への評価は高いと思うが、アジア人男性は一般的にあまり人気がない。理由を聞いたことがあるが、やはり体が小柄で薄っぺらで、セクシーさが足りないのだそうだ。小柄なアジア人でも体操選手のように筋肉もりもりならOKらしい。

人間誰しも自分の価値をより高く評価してくれる環境で生活するのが有利。米国に留学する日本人男性はほとんどが日本に帰国するが、女性は米国に居残って日本に帰国しない確率が男性よりずっと高い。それはなんだかんだ言っても、男性にとってはまだまだ日本では男性だということで優遇されている部分があるが、米国ではそれがないし、米国で女性にあまりもてないので米国に残る理由がそれほど見つからず、日本でのほうが有利に生活できるからだろうと思う。女性はその逆だ。日本ではなにかと閉塞感があるが、米国では女性であることがほとんど不利にならず、就業ビザさえ取得すれば年齢に関係なく職業を得やすく、日本で平凡なルックスでも米国では結構男性にもてるとあらば、米国に残るのは合理的な選択だ。

そうだ、広い世界を視野に入れよう。なにも恐れることはない。思い切って羽ばたこう。もし、何かに引かれている、呼ばれていると感じるならばその方向へ一歩踏み出そう。きっといい方向に物事が進む気がする。そういう何かわからないけれど「気がする」という感覚を大事にすることは人生において結構大事な意味があると思う。運命の戸はたたかなければ。